Research Results 研究成果
九州大学生体防御医学研究所の岡素雅子博士、中別府雄作教授と医学研究院の康東天教授、井手友美講師らの共同研究グループは、人が生きていく上で必要なエネルギーを生産するミトコンドリアのDNAを安定に保つことで、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの蓄積を抑制し、神経細胞間で刺激を伝達する神経突起の伸長が促進されることを発見しました。また同時に、ミトコンドリア機能を維持する上で重要な分子を酸化させてしまう活性酸素の生成も低下するため、ミトコンドリアの機能が改善され、アミロイドβの蓄積を抑制するトランスサイレチンの発現が上昇することを明らかにしました。
アルツハイマー病を発症するモデルマウスは、ヒトTFAMを発現させることでミトコンドリアDNAを安定に保ち、高齢になっても認知機能障害は認められませんでした。また、ヒトTFAMはミトコンドリアDNAの酸化を抑えることでミトコンドリアの機能を改善し、トランスサイレチンの発現を誘導することでアミロイドβの脳内蓄積を減少させることが確認されました。
神経細胞のミトコンドリアDNAを保護することでミトコンドリア障害の悪循環が断ち切られます。その結果、神経細胞の障害が抑えられて認知機能が改善することからアルツハイマー病の新たな治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2016年11月29日(火)午前10時(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」の電子版で公開されました。
ヒトTFAMは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に結合してミトコンドリアDNAを安定に保ち、ミトコンドリア障害の悪循環を断ち切ります。ミトコンドリア機能が改善されると神経細胞の機能が維持されるために認知機能の改善につながります。
iPS細胞由来のアルツハイマー病モデル神経細胞は神経突起を伸長できませんが、ヒトTFAMを投与すると神経突起(赤色)がよく伸びるようになります。
ヒトTFAMを発現させたアルツハイマーモデルマウス脳では、ミトコンドリアの障害が顕著に抑制され、認知機能も著しく改善しました。矢頭は、変性したミトコンドリアを示しています。
アルツハイマー病患者の脳では、神経細胞にアミロイドβが蓄積し、ミトコンドリア機能が低下するために神経機能障害が引き起こされる可能性が指摘されていました。神経細胞のミトコンドリアDNAを保護すると認知機能が改善することから、アルツハイマー病は治療可能な病気であることがわかります。
(中別府 雄作 教授)